あれは神のイタズラなのか。神の、ただの、気まぐれなのか。


「…はっ」


だとしたら、己の、己に近い存在たちはなんという無情の運命に翻弄されているのだろうか。否、それ以前に己の役職柄、神などという人の妄想物について思考をめぐらせているなど、ばかげていると、男─紅丸は己を嘲笑した。
結い上げていた髪を下ろし、自身の肌より臙脂がかかった茜色の空、夕陽を見た。


「あーむかむかする」


赤丸が、己の片割れが、余興を邪魔した。
なぜ。一寸の狂いも無い疑問が紅丸を支配する。死にたかったのなら、死なせればよかったのに。


「そっか」


だから、母も、死んだ。
己に血を分けた母、父は覚えていない。いたような気もするが、いないに等しかった。この時点で普通の家庭ではない。


『母さん、ごめん、ボクが、ボクのせいで』
『赤丸のせいじゃないのよ。誰のせいでもない』
『違う、ボクが、ボクがいたから』
『そうだ』
『紅丸!』
『おまえが、いたから、母さんが…』
『紅丸、なにを馬鹿なこと言ってるの!』
『俺らが、こんなめに!』


異端。遺伝子レベルの、ほんの1つの細胞が来たした異状によって、紅丸たちは差別されていた。
異端児を産んだ母。生まれた子、赤丸。そしてその血を分ける紅丸本人。同じ母の腹に宿り、生まれてきたというのに、なぜ。


『母さん…!母さん!嘘だ…かあ、さん』
『…っだから!おまえなんて…いなければ!いなければ、母さんは、こんな形で死なずに済んだんだ!』


十(とお)を過ぎた頃。厳しい修行を終え、帰宅した先に待っていたのは母の骸。毒の効かない身体のため、クナイで喉元を掻っ切って死んでいた。
このまま赤丸も追い込まれて死ぬのか。そう思ったが、赤丸は死ななかった。外と内側からの苦痛に顔をゆがめながらも、懸命に生きていた。生きることが償いだとでも思っているのだろうか。
バカバカしい。


『紅丸』
『…』
『俺はもう行くよ。紅丸』
『…』
『いろいろ、ごめん。でも、俺、自ら命を絶ったりしないよ。生きることで、母さんの分まで生きるよ』
『…っ』

語るな。お前如きが、母さんを。

『なんだかんだで近くにいてくれて、ありがとう。紅丸』
『っ二度と俺の前に顔を出すな!』
『…うん、そのつもり。でも、運命には逆らえない。気まぐれな神様が』


「また、俺らを引き合わせるよ…か」


気がつけば日はどっぷりと暮れていた。濡烏の闇が世界を飲み込む。


「戯言を…」


事実、引き合わされた。一人の少年に対し、価値観をぶつけ合うかのように。


「なんで俺、なんで」


なんで泣いてんだよ。


形の見えないナニカが、無性に恋しくなった。


※赤丸・紅丸の過去部分は綸子さんのオリジナルです


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